SWIMMING RESEARCH / 06
けのびで見るのは前? 下?
頭を下げるほど、進みやすいのだろうか。
2026年10月18日 · 頭の位置と水の抵抗

壁を蹴ったあと、進む先を見たくなって顔を上げる。けれど、顔を下へ向けるように言われる。「下を見ればいいなら、もっとあごを引いた方がいいの?」と迷ったことはありませんか。
水中で身体を伸ばす場面では、前へ反らした頭を見直す手がかりがあります。ただし、下げれば下げるほどよいわけではありません。研究が比べた姿勢を図で分け、自分のけのびで何を確認するかを考えます。
1 前を見る? 底を見る? まず頭の位置を分ける
けのびは、壁を蹴ったあと、手足で水をかかずに身体を伸ばして進む動きです。進む先が気になって顔を上げると、前は見やすくなります。一方で、頭と腕の並びも変わります。「どこを見るか」は、目の向きだけの話ではないのです。
ここで比べたいのは、顔を前へ向けて頭が上がる形と、顔を底へ向けて頭を身体の流れにそろえる形。「下を見ればよい」を、あごをできるだけ胸へ近づける指示に読み替えないことが大切です。底を見る位置と、さらに頭を下げて足の方を見る位置は、別々に考えます。
同じ「下を見る」でも、頭の位置は違う
同じ視点で、顔の向きと腕の位置を比較
頭を上げ、進む先へ顔を向ける。
頭を身体にそろえ、顔を底へ向ける。
さらに頭を下げ、顔が後ろへ寄る。
図は違いを分けて理解するためのものです。どの角度も同じだけ試す必要はありません。普段から楽に底を見られている人が、さらにあごを引き込む理由を探す記事でもありません。まず「自分はどの形に近いか」を指導者と確認するところから始めましょう。
2 水中で引っぱる実験では、頭を上げると抵抗が増えた
CortesiとGattaは、競泳経験のある男性10人を、水面下60cmで機械により一定の速さで引きました。泳者は手足を動かさず、頭の位置を変えて姿勢を保ちます。測ったのは、その姿勢を同じ速さで引くのに必要な力です。これが「受動抗力」──身体を動かさずに進むときの、水から受ける抵抗です。[1]
測ったのは「引っぱる力」。泳ぐタイムではない
同じ速さで引く → 必要な力を比べる
少ない力で引ける姿勢ほど、この条件での水の抵抗が小さい。
腕を頭の先へ伸ばした条件では、頭を上げたときに比べ、中間の位置と下げた位置の抵抗は平均10.4〜10.9%小さくなりました。一方、中間と下げた位置を比べると、この実験では、一方がより小さい抵抗だとははっきり言えませんでした(統計的な有意差なし)。[1]
したがって、この結果から持ち帰れるのは「前へ反らした頭を見直す価値がある」ということです。「もっと下げるほど得」「あごを限界まで引けばよい」とは読めません。差が見つからないことも、二つの姿勢が誰にとっても完全に同じという証明ではありません。
約10%少ないのは、抵抗の大きさ
共通条件:腕を前へ伸ばし、同じ速さで引く
抵抗の基準を100と置く。
抵抗はおよそ90。
100秒が90秒になる、という意味ではありません。
棒は抵抗の比。速さ・時間・距離の比ではありません。
約10%という数字は目を引きますが、比較したのは抵抗です。同じ練習で10%遠くへ届く、100mのタイムが10%縮むという実験ではありません。壁を蹴ってからの進み方には、最初の蹴りや姿勢の変化も関わります。数字をそのまま自分の記録へ移さず、見直す場所を選ぶ手がかりにします。
3 なぜ目線だけを直しても、同じ形にならない?
底を見るつもりでも、首を反らしたまま目だけを下へ向けることはできます。反対に、頭を下げようとして背中や腕まで動けば、変えたのは頭だけではなくなります。言葉では同じ「下を見る」でも、身体の形がそろっていない可能性があります。
頭の位置を変えると、水に向き合う身体の形も変わります。Zaïdiらのコンピューター計算でも、頭の位置によって泳者の後ろの流れが変わりました。ただし、これは形と流れを簡略化した2次元の計算です。あなたの身体の周りで同じ渦ができると確認したものではありません。[2]
目を下へ向けるだけでは、頭はそろわない
目の向きと、首・頭・腕の関係を分けて見る
目だけを下へ動かしても、首が反ったままの場合がある。
横から、頭が上へ出すぎないか、あごを引き込みすぎないかを見る。
だから、ここでは流れの速さを想像で塗り分けるより、実際に見られる頭と腕の位置を手がかりにします。「耳を必ずこの場所に固定する」と押し込むのではなく、腕を伸ばしたときの無理のない頭の位置を探します。首を固めるほど正確になるわけではありません。
水面でクロールを泳いでいる最中は、息継ぎや腕の動きも加わります。けのびの結果だけで、息継ぎの顔の向きまで決めることはできません。この記事で確かめる場面は、壁を蹴ったあとの短い、手足を動かさない時間に絞ります。
4 次の練習は、遠さを競わず「楽にそろうか」を見る
ここからは本サイトの観察案です。研究と同じ深さ・速さで引いてもらう必要はありません。自分で安全に立てる場所で、指導者と一緒に短いけのびの形を確認します。水に慣れていない人や子どもは、独りで行わず、先に立ち上がり方と終了地点を決めてください。
次の練習は、短いけのびを一つずつ
順番を追って、変える条件はひとつだけ
- 1安全な範囲を決める
立てる深さで周囲を確認。指導者と短い終了地点を決める。
- 2普段の形を見る
蹴りの強さを競わず、頭と腕の位置を横から見てもらう。
- 3頭の位置だけ調整
反っているなら楽に底を向く形を試す。腕・蹴り・終了地点はそろえる。
- 4楽に保てたか比べる
十分に休み、息が苦しくなる前に終える。距離の競争にしない。
「頭を直したら少し遠くへ進んだ」と感じても、その一本だけでは頭の効果と決められません。普段より強く壁を蹴ったり、深く入ったりしていないかも見ます。撮影できる施設なら横からの短い映像も使えますが、撮影は必須ではありません。施設のルールを守り、他の利用者が写らないようにしてください。
記録するなら、「前へ反っていた/楽に底を向けた」「形を保てた/途中で直した」など、見えたことを短く残します。抵抗を測る装置がないのに「抵抗が10%減った」とは記録しません。感じたことと測ったことを分ければ、次に相談する材料になります。
5 自分に合うかは、次の一本へつなげて確かめる
形が楽にそろったなら、同じ形を無理なく繰り返せるかが次の課題です。最初の一本がぎこちなくても、その変更が永久に合わないと決まったわけではありません。反対に、一度だけ遠くへ届いても、その形が完成したとは考えないようにします。
結果を見て、次の一本を選ぶ
観察したこと → 次に行うこと
- 頭がそろい、楽に保てる
- 練習候補にする。別の日も無理なくできるか確認。
- 首が窮屈・進み方が不安定
- 普段の楽な形へ戻し、調整を小さくする。
- 違いが分からない
- 失敗と決めず、蹴りや深さも変わっていないか確認。
研究の参加者は競泳経験のある成人男性で、子どもや初心者全員を調べた結果ではありません。また、身体を一定の速さで引く実験と、自分で壁を蹴って減速していくけのびには違いがあります。首の位置を長く練習したときの上達まで、この実験で示されたわけではありません。[1]
次に壁を蹴るとき、思い出したいのは「とにかく下を見る」ではなく、「前へ反りすぎず、頭と腕が楽にそろっているか」。何メートル伸びたかを急いで採点する前に、その短い場面を一つ、見直してみましょう。
参考資料と確認範囲
- Cortesi M, Gatta G(2015)Effect of The Swimmer’s Head Position on Passive Drag. Journal of Human Kinetics, 49, 37–45. DOI: 10.1515/hukin-2015-0106。原著の方法・結果・表・考察を確認。腕を前へ伸ばす条件の頭位置の比較を採用。
- Zaïdi H, et al.(2008)Analysis of the effect of swimmer's head position on swimming performance using computational fluid dynamics. Journal of Biomechanics, 41(6), 1350–1358. DOI: 10.1016/j.jbiomech.2008.02.005。原著抄録を確認。2次元計算で頭位置と後流が関係するという範囲のみ採用。全文の詳細条件・数値は引用していません。
図は本文の理解を助ける独自の模式図です。実験画像の転載や水の流れの実測ではありません。練習への提案は研究結果と分けて記載しています。