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SWIMMING RESEARCH / 07

息をいっぱい吸えば、身体は浮く?

胸に入る空気と、まっすぐ泳ぐ姿勢を分けて考える

2026年10月19日 · 呼吸と浮きやすさ

息をいっぱい吸えば、身体は浮く?をテーマにした水面に身体を預けて浮く人物のブラシ画
記事のテーマを表すイメージ。研究結果を示す図は本文に掲載しています。

「脚が沈むなら、もっと息を吸えばいいのかな」。水に浮こうとして、胸をいっぱいにしたことはありませんか。空気を吸うことは、水から身体が受ける支えに関係します。ただし、身体が浮きやすくなることと、頭から足まで水平になることは、同じではありません。

さらに、泳ぐときには息を吐き、次の息を吸います。一度だけ高く浮けても、その後の呼吸が続かなければ、泳ぎやすい方法とは言えません。今回は「どれだけ吸うか」だけでなく、呼吸の前後に姿勢がどう変わるかを見ていきます。

1|吸うと浮きやすくなるのは、なぜ?

水の中では、身体は下に引かれる一方で、水から上向きにも押されています。この上向きの力が「浮力」です。まずは、水が身体を下から支えている、と考えてください。

息を吸うときは、胸のまわりの筋肉や、肺の下にある横隔膜が働き、胸の中の空間が広がります。それにつれて肺も広がり、空気が入ります。身体が水中で占める場所が増えるので、同じ深さ・姿勢で比べれば、水から受ける上向きの力も増えます。息を吐くと、その反対の変化が起こります。

肺・胸・水は、どう変わる?

空気の通り道

肺は胸の中にあります。
空気は気管を通って、左右の肺へ入ります。

形の変化を強調した模式図。破線は吸う前です。

  1. 1
    吸う前にも、肺には空気がある
    吸う前

    桃色は肺、濃紺の線は胸の外形。

  2. 2
    胸と肺が広がり、空気が入る
    息を吸う

    胸が広がると肺も広がり、空気が入る。茶色の線は肺の下にある横隔膜(呼吸に使う筋肉)。

  3. 3
    まわりは水胸の断面上から見た図新しく身体が占める範囲ここにあった水が、外へ移る
    広がったぶん、水を押しのける

    破線は吸う前、実線は吸った後。青い斜線の部分は、肺の中ではなく身体の外側の変化です。厚みもある身体では、押しのける水の量が増えます。

  4. 4
    身体の断面水から受ける上向きの支え=浮力
    水から受ける支えが増える

    身体が水中で占める体積が増えると、受ける浮力も増えます。

③④は身体全体が水中にあり、同じ深さ・姿勢で比べる説明。水面で浮いて止まった状態の比較ではありません。外形・横隔膜・肺の変化は説明用に強調し、実測比や解剖学的な寸法を表していません。ご提供の肺画像は形の紹介に使用。

ここで大切なのは、「空気そのものが、身体を上から引っ張る」のではないことです。空気が入って身体の体積が変わり、その身体を水が押し上げます。図の上の矢印は、空気が肺へ入る通り道を示しています。身体を支える浮力とは、別のものです。

ただし、吸えば誰でも水面で同じように浮くわけではありません。身体のつくりや姿勢、水面から出ている部分も関わります。「友達は浮くのに、自分は脚が下がる」という違いだけで、吸い方が間違っているとは決められません。

2|「浮く」と「水平になる」は、別のこと

次の2つを分けて見てみましょう。ひとつは「身体全体が、水面からどれくらい下にあるか」。もうひとつは「胸に対して、腰や足がどれくらい下がっているか」です。

胸が水面の近くにあっても、足が深いところにあれば、身体は斜めです。逆に、身体全体が少し水面の下にあっても、頭から足までほぼ同じ深さなら、姿勢は水平に近くなります。高い位置にいることだけを見て、よい姿勢だとは判断できません。

身体の「深さ」と「傾き」を分けて見る

A
水面頭・胸・足が近い深さ
水面より下でも、水平に近い

深さは水面から下へ。身体の並びは頭から足へ見る。

B
水面胸が高くても、足は深い
胸が高くても、身体は斜め

胸の高さだけでは、頭から足まで水平かは分からない。

姿勢の違いを分ける模式図です。二つの姿勢を生む原因や、研究参加者の実際の形を示した図ではありません。

胸・腰・足は、いつも同じように上がるわけではありません。泳いでいるときには手足の動きや水から受ける力も関わります。「息を吸えば全身が同じ高さまで上がる」「胸が浮けば必ず脚が沈む」と決めず、実際の身体の並びを見ることが大切です。

横から姿勢を見るときは、水面と身体の距離を見る目と、胸・腰・足の並びを見る目を分ける。この区別があると、「もっと吸えば解決するのか」という問いも、少し具体的になります。

3|実際に泳いでいても、空気の量で変わる?

2021年の研究では、十分に練習している男性泳者13人が、肺の空気を「最大まで吸う・中間・最大まで吐く」の3条件に保ち、15mのクロールを泳ぎました。目標の速さは毎秒1.20mで、速さをおおむねそろえて比較しています。研究1

身体の重さの中心である「重心」の深さは、最大まで吸った条件では水面から平均15.2cm、中間では16.3cm、最大まで吐いた条件では19.9cm。空気が少ない条件ほど低い位置にありました。最大まで吐いた条件では、胴体の傾きや手足を動かす頻度も大きくなっていました。

泳ぐ速さをそろえ、重心の深さを比較

熟練男性13人・泳ぐ速さをそろえた比較

水面重心水面から、重さの中心までの深さ

点は考え方を示す仮の位置。重心は固定の臓器ではなく、姿勢によって変わります。

水面=0cm0510152015.216.319.9水面下の深さ(cm)最大まで吸う中間最大まで吐く
最大まで吸う

重心の深さ:15.2cm

中間

重心の深さ:16.3cm

最大まで吐く

重心の深さ:19.9cm

Washinoら(2021)の抄録に記載された平均値。熟練男性泳者13人、15m、目標速度1.20m/s。0〜20cmを同じ縮尺で表示。個人の目標値や泳ぐ速さの比較ではありません。

この数字は、頭やお腹の一点を直接測った深さではありません。身体各部の動きから求めた、身体全体の重さの中心です。また、13人の平均であり、「あなたも15.2cmを目指す」という目標値ではありません。

研究から読み取れるのは、肺の空気の量が、泳いでいるときの身体の位置や動きにも関係したということです。速さをそろえた実験なので、「いっぱい吸うと最速になる」と示したものではありません。最大まで吸ったり吐いたりして、その量を保つ条件も、普段の呼吸とは異なります。練習で再現する必要はありません。

4|上手な人は、たくさん吸っているから浮く?

2017年の研究は、泳ぎの経験が異なる26人を、水中で水平に支えた姿勢で比較しました。呼吸で出入りする空気の量を測り、その最大値を比べると、群の間に統計的に明確な差はありませんでした。一方、身体の両端に付けた装置で、呼吸に伴う手側・足側の力の変化を調べると、その変わり方を比べる指標には差がありました。空気の量と、身体の支えられ方を別々に調べた研究です。研究2

これは、「吸える量だけ」で水平姿勢の違いを説明しきれないことを考える材料になります。ただし、自由に泳ぐ競争ではなく、身体を装置で支えた測定です。呼吸法を教えて上達したかを確かめた研究でもありません。論文が述べる腹式呼吸や肩・体幹の役割は、確かめられた原因として扱わないようにします。

「頭が上がって、戻る?」を絵で追う

  1. 1
    水面破線=息継ぎ前の頭の高さ
    息継ぎの前

    水面を基準に、普段の頭の高さを見る。

  2. 2
    水面口は水面の上へ破線=息継ぎ前の頭の高さ
    息継ぎのとき

    頭を持ち上げる例。破線は前の頭の高さ。

  3. 3
    水面破線=息継ぎ前の頭の高さ
    息継ぎの後

    前の高さへ戻るかを見る。戻らなければ、それを記録。

観察のしかたを説明する仮の例。研究参加者の映像や、正しい息継ぎのお手本ではありません。実際に頭が上がるか・戻るかは本人の泳ぎで確認します。

自分の泳ぎに戻すなら、吸った直後だけでなく、その後に吐いて次の息を吸うところまでを一続きで見たいところです。浮くために息をため続けると、「楽に呼吸を続けられるか」という別の大切な確認が抜けてしまいます。

見た目の高さだけで合格にしない。息の量を増やす前に、呼吸に合わせて頭が上がる、腰が落ちる、といった変化がないかを見る。ここから先は、研究で効果が証明された処方ではなく、本サイトが提案する観察の視点です。

5|次の練習では、呼吸の前後を一つだけ見る

次回は、普段の楽な速さでクロールを泳げる人を対象に、指導者に横から呼吸の前後を見てもらう方法を提案します。施設のルールに従い、子どもは指導者の見守りのもとで行います。泳ぎや呼吸にまだ不安がある場合は、一人で試さず、呼吸と姿勢の練習から相談してください。

最初は普段どおりに泳ぎます。見る場所は一度に一つ。たとえば「息を吸うとき、頭が上がり、その後も戻りにくくなっていないか」です。呼吸回数を減らしたり、深呼吸を繰り返してから泳いだり、長く息を止めたりする必要はありません。

次の練習は、見る・選ぶ・確かめる

  1. 1
    水面
    普段を横から見てもらう

    指導者と、楽な速さで泳ぐ姿を確認。

  2. 2
    水面今回は「頭」だけに注目
    見る場所は一つ

    この例では頭。他の場所まで一度に直さない。

  3. 3
    指導者と選ぶ助言息継ぎと身体の横向きを合わせる練習はどうか
    助言も一つ

    図の言葉は相談の例。自分の動きに合うかを指導者と選ぶ。

  4. 4
    見ること呼吸:楽に続く?頭:普段の高さへ戻る?
    呼吸と姿勢を確認

    丸・ばつは記録の例。苦しくなるなら休み、元の楽な泳ぎへ戻す。

本サイトの観察案。図の丸・ばつは記入例で、実際の改善結果ではありません。長い息止めや極端な吸気・呼気の条件を再現する練習ではありません。

姿勢の変化が見えたら、指導者と相談して、その動きへの助言を一つだけ選びます。たとえば、頭を高く持ち上げる動きが見えた場合に、身体の横向きの動きと息継ぎを合わせる練習が自分に合うかを確かめます。息の量まで同時に変えると、何が変化に関係したかが分かりにくくなります。

その後、同じような楽な速さで泳ぎ、「息が無理なく続くか」「気になった姿勢の変化が小さくなったか」を確認します。苦しくなる、姿勢を保つために強く力む場合は元の泳ぎに戻して休みます。一度で変わらなければ、吸う量を増やして埋め合わせず、見る場所や助言を指導者と見直します。

息を吸うことは、浮きやすさに関わります。でも、泳ぎの目標は空気をいっぱいためることではありません。呼吸を続けながら、無理のない姿勢で進めること。そのために、次の練習では「量」だけでなく、呼吸の前後の身体の並びに目を向けてみてください。

参考文献と確認範囲

1. Washino S, Murai A, Mankyu H, Ogita F, Kanehisa H, Yoshitake Y. (2021). Lower lung-volume level induces lower vertical center of mass position and alters swimming kinematics during front-crawl swimming. Journal of Biomechanics, 121, 110428. DOI: 10.1016/j.jbiomech.2021.110428。PubMedの抄録を確認。全文の個別データや測定の細部は未確認です。 2. Watanabe Y, Wakayoshi K, Nomura T. (2017). New evaluation index for the retainability of a swimmer’s horizontal posture. PLOS ONE, 12(5), e0177368. DOI: 10.1371/journal.pone.0177368。公開本文の方法・結果・考察・結論を確認。図表は転載せず、本記事用の模式図を作成しています。

3. NHLBI:How Your Body Controls Breathing、MedlinePlus:Diaphragm and lungs。胸・肺・横隔膜の動きの説明に使用。図は独自の模式図です。