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SWIMMING RESEARCH

泳ぐときの指は
閉じる? 少し開く?

「水を逃がさない手」を研究から考える

· 手の形と推進力 · 4つの研究を読む

泳ぐときの指は、閉じる? 少し開く?
記事のテーマを伝えるバナーです。実験結果を示す図ではありません。

クロールで水をかいたとき、指の間から水が抜けてしまう感じがする。だから、指はぴったり閉じたほうがいいのだろうか。

泳ぎを見直し始めると、こんな小さな疑問が気になります。自分の記録を伸ばしたい人にも、子どもの泳ぎを見る保護者にも、手の形を伝える指導者にも関わる話です。

先に、研究から読み取れる答えをお伝えします。

指は、少し開いた形のほうが、水から受ける力が大きくなる場合があります。ただし、親指まで含めた「全員にとって最も速い形」が決まっているわけではありません。

ここで大事なのは、「水から受ける力が増える」と「泳ぐタイムが縮まる」を分けて考えること。今回は、指の隙間と親指を調べた研究をつなぎながら、次の練習で何を確かめればよいかまで考えます。

1|指の隙間があっても、必ず不利とは限らない

まずは、親指以外の4本の指に注目しましょう。

「指を閉じる」「少し開く」「大きく開く」。この違いを調べた研究では、少し開いた手が有利になる条件が報告されています。

同じ向きの手を、指を閉じる・少し開く・大きく開くの3通りで並べた模式図。角度や間隔は実寸ではありません。
図は形の違いを理解するための模式図です。研究で使われた角度・間隔を再現したものではありません。

左から、閉じる・少し開く・大きく開く。枠は見る場所の案内で、優劣や測定値を示しません。研究の0/3.2/6.4mmの間隔を再現した図ではありません。

たとえば、Marinhoらの研究では、泳者の手から作ったコンピューター上のモデルを使い、指先の隙間が0、3.2、6.4mmの3つの形を比較しました。手の向きによって結果は変わりましたが、手のひらを流れに大きく向けた条件(迎え角が30度を超える条件)では、3.2mmの形の抗力係数が大きくなりました。研究1:Marinhoら、2010

図で確かめる

3.2mmと6.4mmは、どれくらい違う?

数字は研究の手のモデルで設定した指先の隙間です。3.2mmは1cmのおよそ3分の1、6.4mmはその2倍です。自分の指をこの幅に固定する指示ではありません。

二本の指先だけを拡大した模式図。画面上の実寸ではありません。

閉じる
指先の隙間 0mm
0mm
少し開く
指先の隙間 3.2mm
3.2mm
この研究で最も広い
指先の隙間 6.4mm
6.4mm

三つとも同じ拡大率。6.4mmの隙間は、3.2mmの2倍です。

二本の指先の形は位置を示すために単純化しています。手の大きさや受ける力、実際の指の厚みは表していません。この研究から全員に最適な隙間が決まるわけではありません。

「抗力」とは、水の流れに沿って手が受ける力です。手を水に対して後ろへ動かす場面では、手が受ける前向きの抗力が、前に進む力になります。抗力係数は、流れの速さや基準となる面積などを考慮して、力の受け方を比較する指標です。

「係数」は、力そのものの数字ではありません
抗力係数は、流れの速さや基準の面積を考慮して、力の受け方を比べる指標です。係数が増えた割合を、そのまま泳ぐ速さの増え方には置き換えられません。

ただし、この研究をそのまま「指の隙間は3.2mmにしよう」と受け取るのは早すぎます。調べたのは特定の手のモデルですし、手を流れに対して浅く向けた条件では、3つの形の差は小さかったからです。

「指を開く角度」と「手全体の向き」は別の話
迎え角は、水の流れに対して手全体をどう向けるかを表します。あとに出てくる「指を12度開く」は、指どうしの開き方の話です。30度と12度を、同じ場所の角度として比べないようにしましょう。

研究が教えてくれるのは、「隙間があるほど水を逃がして損をする」とは言い切れない、ということです。

2|なぜ、隙間があっても力が大きくなることがある?

隙間があるのに力が大きくなる。この点は、直感に反します。

水中にある手。手全体の幅と指の隙間へ目を向けるイメージ
指の周りの光や水の模様は、流速や力を示したものではありません。 独自制作の生成画像で、実験写真ではありません。

考える手がかりは、指を開くと、手全体の外側の幅も広がることです。一方、指の間から流れる水もあります。どちらが強く働くかによって、結果が変わります。

図で確かめる

外側の幅が広がり、間にも通り道ができる

同じ太さの四本を、閉じた場合と少し離した場合で比べます。外側から外側までの幅は広がります。一方、その間には水が通る隙間もできます。この二つを一緒に考えます。

閉じる
外側の幅

隙間のない状態を、比べる基準にします。

少し離す
外側の幅

↓ は、隙間にも水の通り道があるという印です。

形を単純化した概念図です。矢印は実際の流れの線・向き・速さ・量を再現していません。

指を離すと変わる二つの場所を示しました。どれだけ力が増えるかはこの図から計算できません。外側の幅と、抗力係数の計算に使う基準面積は別です。

イメージとしては、隙間のある板を水の中で動かすようなものです。少し隙間を作って板全体の幅が広がっても、すぐに「水を受け止められない板」になるわけではありません。逆に、隙間が広すぎれば、抜ける流れの影響も無視できなくなります。

これは隙間と流れの関係を考えるためのイメージです。2017年の研究では、この考えを簡略化した面のモデルとして説明しています。手の外側の幅と、係数の計算に使う基準面積は別のものです。

van Houwelingenらは、計算だけでなく、手と前腕の模型を風洞でも調べました。風洞は空気の流れを使う実験です。流れの条件を対応させて、水中の手に関わる性質を検討しています。

空気の実験から、何を調べたの?
調べているのは、流れの中に置いた模型が受ける力です。水中で泳者のタイムを測った実験ではありません。流れを対応させた模型の結果と、自分の泳ぎで速くなるかは、分けて確かめます。

この研究でも、指を少し開くことに利点が見られました。ただし、力の増え方や有利な角度は、計算と実験で完全には一致しません。研究2:van Houwelingenら、2017

複数の研究を重ねると、「少し開く形は検討に値する」とは言えそうです。それでも、そこから一つの間隔を取り出して、全員の手に当てはめることはできません。

数字まで知りたい方へ

Minettiらの計算では、指を12度開いたモデルで、閉じたモデルより抗力係数が8.8%大きくなりました。研究3:Minettiら、2009

図で確かめる

8.8%増は、100に8.8を足すこと

閉じたモデルの抗力係数を100と置くと、12度開いたモデルは108.8に相当します。100と108.8は、比を読みやすく置き換えた数字です。

抗力係数の比 · 閉じたモデルを100に換算

閉じたモデル · 100
12度開いたモデル · 108.8

100 + 8.8 = 108.8
増えたのは抗力係数。泳ぐ速さやタイムではありません。

Minettiら(2009)の8.8%という比率を換算した図です。力の実測値、速度、タイムのグラフではありません。

これは「泳ぐ速度が8.8%上がった」という結果ではありません。手のモデルに関する指標であり、泳者のタイムを測った数字ではないためです。

こうした数字を見るときは、増えたものが「力」「係数」「泳ぐ速度」のどれなのかを確かめると、研究を練習へつなげやすくなります。

3|親指も開いたほうがよい?手の向きと一緒に考える

4本の指を少し開くなら、親指も大きく開いたほうがよいのでしょうか。

親指については、もう一つ、力の「向き」を考える必要があります。

Marinhoらの別の研究では、親指を閉じた手の抗力係数がわずかに高い一方、手の向きによっては、親指を開いた手の揚力係数が高くなりました。研究4:Marinhoら、2009

揚力は、流れと直角の方向に働く力です。名前に「揚」が入っていますが、水泳ではいつも体を上へ持ち上げる力、という意味ではありません。

図で確かめる

流れが回れば、「直角の向き」も変わる

抗力と揚力は、水の流れの向きを基準に分けた名前です。右向きの流れに対して上向きは直角ですが、下向きの流れに対しては右向きが直角になります。

例A:流れが右向き

流れ・抗力の方向

流れに直角な方向
例B:流れが下向き

流れ・抗力の方向

流れに直角な方向
向きの関係だけを示す概念図です。直角な向きの一例を描いており、実際に揚力がこの向きへ働くことや、その大きさを指定していません。
力の方向を示す概念図です 矢印の長さや表示順は 力の大きさや発生する順番を表していません

流れ → 抗力 → 揚力の順に説明します 揚力の向きは手の傾きや流れで変わり いつも身体を上へ持ち上げる力ではありません

水から大きな力を受けていても、その力が前へ進むために役立つ方向を向いているとは限りません。だから、「抗力が大きい形」「揚力が大きい形」だけで、泳ぎの正解は決められないのです。

この研究も、一定の流れを使った手のモデルの比較です。「ストロークのこの瞬間に親指を開閉しよう」という指導法を、泳者の実験で確かめたものではありません。

親指の形を考えるときは、形だけを切り離さず、その手をどの向きへ動かしているかと一緒に見る。 ここが、4本の指の隙間だけを考える話との違いです。

4|研究の答えを、自分の泳ぎにどうつなげる?

ここまでの研究は、「手の形が流体から受ける力」を理解する材料です。マスターズスイマーが指の形を変え、何週間か練習した結果、記録が改善したという比較ではありません。

プールの縁で、自分の手の形を観察する泳者のイメージ
手だけでなく、泳ぎ全体の変化を確かめるための観察イメージです。 独自制作の生成画像で、実験写真ではありません。

実際に泳ぐと、指の形を変えたつもりでも、手首が反ったり、腕に力が入ったり、ストロークのテンポが変わったりします。少し開くことで手がリラックスする人もいれば、形を作ろうとして力む人もいるでしょう。

そこで試すなら、「理想の角度を作る」より、まずは普段の形と、無理なく少し開いた形を比べるところから始めるのが扱いやすいと思います。

ここからは、研究を踏まえた練習での観察案です。

指導者・保護者が見るなら

子どもに「この隙間を作って」と細かく指定する前に、手の形を意識したことで泳ぎ全体がどう変わるかを見てみましょう。

手だけが固まっていないか。水をかく動きが止まっていないか。本人が違いを言葉にできるか。

今回の手のモデルを使った研究から、子どもの手に共通する最適な間隔や、年齢別の教え方までは分かりません。数値を正確に再現させることより、本人の泳ぎを観察するための問いとして使うほうが、研究の範囲に沿っています。

5|次の練習で、一つだけ比べてみる

成人で、普段から25mを無理なく泳げる方なら、いつもの練習の中で次のように比べてみる方法があります。

  1. 普段の手の形で25m泳ぐ。
  2. 休んでから、指を無理なく少し開いて25m泳ぐ。
  3. 別の機会には順番を逆にし、同じような違いが出るか確かめる。

親指や泳ぐテンポまで同時に変えると、何が違いを生んだのか分かりにくくなります。今回は指の間隔だけを意識し、距離と努力感をできるだけそろえてみてください。

数える「1回」を先に決めよう
右手の入水を1回、左手の入水をもう1回と数える方法も、左右を合わせて1周期と数える方法もあります。比べる2本で同じ数え方にしましょう。数字だけを比べず、どちらの数え方だったかも記録します。

練習で比べる3つの観察項目 数字は項目を区別する番号であり 観察する順番・重要度・研究の効果量を表していません

タイム → ストローク数 → 感触と力みの順に表示します 動きを減らす設定でも3項目を確認できます

見るのは、タイムだけではありません。

  • タイム:同じくらいの努力感で、どのくらいかかったか。
  • ストローク数:同じ数え方で、何回かいたか。
  • 感触と力み:水を捉える感触と、手・腕の力みはどうだったか。

たとえば、少し速くなっても、いつもより強くかいていたなら、手の形の効果とはまだ言えません。ストローク数が減っても、途中で大きく減速していれば、それだけでよい変化とは判断できません。

疲労や混雑、押し出しの強さでも結果は変わります。一度の25mで決めず、条件が似た練習で何度か観察する。そのうえで、自分が無理なく続けられる形を探していきましょう。

6|大会前は、確かめた泳ぎを持っていく

大会が近い時期には、手の形のような細かな工夫が気になるかもしれません。

競泳用ゴーグル・水泳帽・デジタルストップウォッチ・記録ノートをそろえた大会準備のイメージ
大会前は、練習で確かめた感覚を持ち込む。準備を描いたイメージ画です。 独自制作の生成画像で、実験写真ではありません。

ただ、この記事を読んだその日に、大会用の泳ぎを大きく作り替える必要はありません。手のモデルで有利だった形が、自分のレースでも有利になるかは別の問いだからです。

練習で何度か確かめ、泳ぎ全体が崩れず、余計な力みも増えない。そのような手応えが得られた変化を、自分の泳ぎの選択肢にしていく。大会直前なら、すでに確かめた感覚を優先する、という考え方もできます。

「指を閉じるか、開くか」は、小さな話に見えます。でも、そこには研究の読み方と、泳ぎを改善するための大切な問いがあります。

その形は、自分の手で水を受ける助けになっているか。そして、泳ぎ全体ではどう変わったか。

次の練習では、まずこの二つを観察してみてください。


参考文献と確認範囲

  1. Marinho DAほか(2010)Swimming Propulsion Forces Are Enhanced by a Small Finger Spread. Journal of Applied Biomechanics, 26(1), 87–92。論文情報。大学公開の原著PDFで方法・結果を確認。
  2. van Houwelingen Jほか(2017)The effect of finger spreading on drag of the hand in human swimming. Journal of Biomechanics, 63, 67–73。論文情報/著者公開原稿。出版社抄録と公開原稿の方法・結果・モデルの説明を確認。掲載最終版全文との逐語照合は未実施。
  3. Minetti AEほか(2009)The optimum finger spacing in human swimming. Journal of Biomechanics, 42(13), 2188–2190。論文情報。大学公開抄録と著者解説を確認。原著全文は未精読。
  4. Marinho DAほか(2009)Hydrodynamic Analysis of Different Thumb Positions in Swimming. Journal of Sports Science and Medicine, 8, 58–66。公開原著PDF。方法・結果・限界を確認。

画像は独自制作のイメージ・概念図です。論文図、実測画像、数値解析結果の転載ではありません。図中の手の形から、最適な指の間隔を測ることはできません。